2018年8月13日月曜日

5価のリン化合物によるキラルなホスホロチオエートDNA合成

 すでにいろんなところで取り上げられているKunouseらのScience誌の論文ですが、本ブログでも取り上げないわけにはいかない極めて重要な論文です。合成だけでScienceに掲載されるのはインパクトとキラルなホスホロチオエートの話題性が高いということですね。Scripps研とBMS(Bristol-Myers Squibb)の共著で、サプリメントの資料も220ページでボリュームたっぷり。タイトルどおり、5価のリン化合物をモノマーユニットとして用いてキラルなホスホロチオエートDNA2量体やオリゴの合成を行なっています。

 リモネンから過酸化水素で酸化して合成したリモネンオキシドを不斉源として不斉リン化合物を合成しています。やはり天然の不斉炭素は重要ですね!。論文では、様々なエポキシを検討したような図が出ていましたが、比較実験のデータは見つけられませんでした。脱離基のSC6F5もしかり。
 得られたリン化合物をDBUの強塩基条件で、5'-水酸基が保護されたヌクレオシドと反応させることによって、3'-水酸基に導入しモノマーユニットとします。
 このユニットをさらにDBU存在下で5'-水酸基が遊離しているヌクレオシ(チ)ドと反応させることにより、ヌクレオチド間の結合がキラルなホスホロチオエートDNAを合成することができます(d.r. >99%)。
 ヌクレオチド2量体のほか、環状のヌクレオチド2量体、オリゴ合成に応用しています。
 素晴らしい!⭐️。

メリットは、
>5価のリンなので、空気酸化や加水分解を受けにくい。
>リモネンから誘導した不斉補助基で工程数が少ない、安い。
>塩基部位が無保護でもいける?。(←DBUでの反応中でアシル型の保護基は脱落している様子)
低分子の不斉ホスホロチオエートDNA合成には、5価のリンが使いやすい。STING、抗ウイルス剤などは、こちらが向いているとのことかな。

これからのところ、
オリゴ合成には縮合収率がいまいち。塩基部の反応性はどうなってるのか?保護基の有無など。
とくに水酸基と同じ求核種のチミジンのO4, グアノシンO6位との反応選択性についてどうなのかと思う。DMTrを活用したオリゴマー合成を考えた時には、塩基部の保護がDBUの条件下でも安定かつ、DMTr除去の酸性条件で安定な、オルソゴナルな保護基が必要なのかなと思いました。
サプリメント資料を真面目に読むと、塩基部アシル型の保護のモノマーを合成しているが、どうも収率があまりDMTr-Bz-A(Rp): 51%、DMTr-Bz-C(Rp): 45%、DMTr-iBu-G(Rp): 30%。それを用いて4塩基を含むオリゴ合成はやっているんだけど、本文には出してない、HPLCデータなし。

Science誌だから仕方ないのかもしれないですが、もう少し化学に関する議論があってもいいのにと思いました。サプリメント読むの疲れました。