2023年4月29日土曜日

Tofersen承認ですね。

MOE gapmerのTofersenが承認

血漿からのサロゲートマーカーとしてニューロフィラメント軽鎖(Nfl)が使われ、一旦承認されたという感じでしょうか。ALS(筋萎縮性側索硬化症)に対する核酸医薬品がさまざま開発されているので、明るいニュースだと思います。投与量100 mg/15mL/ヒト(8 doses in 24 wkと思われる_N Engl J Med 2022; 387:1099-1110 DOI: 10.1056/NEJMoa2204705)で髄腔内投与なので、かなり多いと感じます。同じMOE gapmerで、トランスサイレチンアミロイドーシスに対するInotersenは、284 mg/1.5 mL/wk/ヒト皮下投与なので、これと比較すると、もはや局所投与ではない(汗)。血中暴露もそれなりにありますね。論文でも髄腔内投与によるadverse event(Table 3)はかなりでているので、今後解決していくべき課題ですね。けどメデタイです。

Ionis のプレスリリース

biogenのプレスリリース






2023年4月1日土曜日

Run & walk で希少疾患支援

核酸医薬品の適応疾患としてよく検討される希少疾患について、皆さんが歩いたり走った距離に応じて、サノフィ社が疾患支援金を提供するイベントが開催されます。サノフィさんも、佐野玲愛(サノレア)という2次元アイドル的なキャラを登場させて啓蒙活動されています。

イベントの参加は、RUNNETというマラソンなどの大会エントリーサイトから無料で参加できます。アプリを入れてGPSをonして歩いたり、走ったりしたら良いそうです。GPS-watchともリンクしているそうです(ガーミン、エプソン、apple watch、私のポラールは対応不可?)

数年前は、1kmあたり80円提供しているとのことでしたが、今年の単価はどのようになっているのかわかりませんでした。

距離のカウントは、4/7(金)スタートです。
よろしければどうぞ。

2023年2月7日火曜日

DMTr基とPix基からアセタール型の保護基を思い出す。

ご無沙汰ぶりです、更新できておらずすみません。先日あるオリゴのCROの若手研究者の方とお話する機会があり、更新しないのですかと聞かれまして、思い腰を上げて最近読んだ古い論文紹介をさせて頂きます。

最近、ピクシル(9-phenylxanthen-9-yl, Pix)基についての論文を読み直す機会があり、そういえば弱酸性条件で脱保護するRNAの2'-水酸基の保護基と組み合わせて、5'-水酸基の保護基として活用されていたなと思いだしました。Pix基は、DMTr基と同じ酸性条件化除去できる保護基として開発されました(Chattopadhyaya_1978_ChemComm)。この論文で、Pix基はDMTr基よりも迅速に脱保護が行なえると報告しています。


この当時、RNAの2'-水酸基の保護基としてマイルドな酸性条件下除去が可能なアセタール型の保護基が盛んに研究されていたこともあって、この年代の論文ではよく登場します。畑先生のグループ(Tanimura_1988_Tetrahedron Lett.)は、RNAの2'-水酸基をテトラヒドロピラニル(tetrahydropyran-4-yl, THP)基で保護し、5'-水酸基をPix基とその類縁体の9-(4-methoxyphenyl)xanthen-9yl(Mox)基で保護されたアミダイトを報告しています。核酸塩基毎のトリチル系保護基の脱保護速度*を考慮して、A/GはPix基、C/UはMox基を導入して、脱Pix基が迅速に行なえるように最適化が図られ、10mer -13merのRNAの合成に成功しています。

この後もさまざまなアセタール型の保護基として、電子吸引性の置換基を導入したもの(Sakatsume_1991_Tetrahedorn, Matysiak_1998_Helv. Chim. Acta)や、強酸性条件でアセタール型保護基の一部に導入したピペリジンがプロトン化し電子吸引性効果を示すl-(2-chloro-4-tolyl)-4-methoxypiperidin-4(Ctmp)基(Reese_1986_TetrahedronLett)、1-(2-fluoropheny1)-4-methoxypiperidin-4-yl(Fpmp)基(Reese_1988_JCS_Perkin1)などが合成されたのですが、やはり酸性条件で除去するトリチル系保護基との併用はうまくいかず、シリル系のTBMDSや、TOMなどが主流となりました。

今回、Pix基について論文調査したところ、紫外光(254nm)で脱保護できるそうです。核酸の場合は、塩基部の吸収があるので、254では実験されておらず300 nmの波長でかなりの時間の光照射が必要だそうです(Misetic_1998_TetrahedronLett)。それにしても、読んでいる論文がclassicで本ブログにピッタリですね。

*dGiBu>dABz>dCBz>dT:DMTr基の脱保護速度は核酸塩基の保護基によっても異なるとは思いますが、この順序で報告があります。合成機のオレンジ色の抜ける速度もこのような順でしょうか。(Seliger_2001_Curr Protoc Nucleic Acid Chem)

2020年7月14日火曜日

ビルトラセン(ビルテプソ®点滴静注250mg)の薬価

日本新薬の国産初アンチセンス医薬品、ビルトラセンに薬価がつきました。
ビルトラルセン(ビルテプソ)は、エキソンスキッピング型のアンチセンス核酸で、ジストロフィン遺伝子のエキソン53をスキップすることにより、機能するジストロフィンタンパクを発現させるという、教科書的な核酸医薬品です。
薬価は、ビルテプソ点滴静注250 mg、5 mLで91,136円、市場性加算と先駆け審査指定制度加算を含みます。投与量が80 mg/kg、週1回の点滴とかなり多いので、体重30kgくらいの子供さんでも2.4gを静注で投与するという凄まじい事になっています。1年が53週とすると、年間5千万円近くの薬剤費という事になります。原価の計算もweb上に出ていて、本薬剤の薬価算定は、原価計算方式でされており、製品総原価は58,299円で、営業利益10,127円とのこと。全然儲からない。3年後のピーク時で128人、販売金額54億円を予測していますので、10億円/年も儲からないって事になります。ともあれ、核酸医薬品のCMOさんにとっては、定常生産する製品ができ、2.4 g x 53 週 x 128 人 = 約16 kgのモルホリノが毎年生産されるという事になるのですね。すごい事です。
ビルトラルセンに使われているChemistryがモルホリノなので、毒性懸念が極めて少ないとの事で、高い投与量でもシビアな副作用がみられないのかと。添付文書をみると、12時間後までに、血中濃度は、ほぼ0に。24時間後までに92-93%の未変化体が尿中へ排出されたとあります。ほとんど出ちゃうんですね。
核酸医薬品は、やはり原価がどうしても高いので、強い薬効と安全性の両立を目指す必要があると、改めておもいました。



2020年2月12日水曜日

TBAF (テトラブチルアンモニウムフルオリド)

バタバタ忙しくて、更新できてなくてすみません。仕事に追われてなかなか時間が取れなかったです。TBAFについて、調べ直しする必要があったので、せっかくなのでまとめてみました。 RNA化学合成後の2'-TBDMS (TBS)基の脱保護には、TEA·3HFが広く用いられています。少し前(だいぶ前?) は、TBAF (tetrabutylammonium fluoride)が用いられていました。TBAFの含水量によって、RNAの脱保護時の脱シリル反応が遅くなる(進行しなくなる)との報告(Hogrefe_1993_NAR)があり、含水量による反応の再現性が得られにくいので、TEA·3HF (Westmanu_1994_NAR)が使いやすいということになってきたのかと思います。 さてTBAFですが、3水和物〜4水和物くらいのものが固体の試薬として市販されています。かなりの潮解性です。含水量を気にして、しっかりとシールされている1 M TBAF/THFの溶液を何度も購入しました。そのほかTHF溶液にモレキュラーシーブを入れたりして・・・(今から思うと過酸化物怖い)。 TBAFの水和水ですが、試薬の安定性に極めて重要な役割をしていて、この水和水を除去すると、試薬が分解してしまいます。TBAFの水和水を除くため、脱水のアセトニトリルを使って、エバポレータで共沸脱水したことがあります。すると、23回の共沸脱水操作(バス温40°C以下だったと)で、試薬が着色、分解してしまいました。後から調べたら文献(Sharma_1983_JOC)でも報告があり、加温、減圧乾燥で、ホフマン分解が進行してしまい、トリブチルアミン、HF1-ブテンが生成するとの報告がありました。ホフマン分解のメカニズムは、4級アンモニウムのβ-位の水素がF-で引き抜かれ、レトロマイケルで進行するのですが、このように、Naked F-の水素結合アクセプター性は、共存する水や、溶媒などにより大きく影響を受けるということがわかります。TBAFは、中性だとか塩基性だとか色々言われていますが、溶媒和によってその水素結合アクセプター性が変化するので、単純な中性、塩基性の議論で済まないと思っています。 ほかのブログさん(たゆまずとも沈まずー有機化学のあれこれ)で、無水TBAFの紹介がされていますが、無水TBAFは、hexafluorobenzenetetrabutylammonium cyanideから、低温で合成できるとの報告があり(Haoran_2005_JACS)、その反応有用性も報告されています。また、Naked F-については、窒素より原子半径が大きい、ホスホニウムカチオンとの組み合わせで、テトラメチルホスホニウムフルオリドの報告がありますが、アセトニトリルの水素原子を引き抜いてしまうほどその水素結合アクセプター性はかなり強いです(Hohenstein_2010_ZEITSCHRIFT FÜR NATURFORSCHUNG B)。 今回の機会に、TBAFのことを調べてみると、TBAF(tBuOH)4 結晶性が高く、潮解性が低く、TBAF(H2O)xから合成でき使いやすいとの報告(Kim_2008_Angew)や、pinacol錯体が販売されていたり、実験していない間に化学が進歩している様です。使ってみたい試薬たち。 RNAの脱保護だけではなく、通常の有機合成でも、個人的にシリル系保護基の脱保護には、TEA·3HFがオススメです、TBAFのテトラブチルアンモニウムカチオンが精製時に厄介ですよね。

2020年2月5日水曜日

Mila's Mir⭐️cle Foundation

 n = 1の臨床試験が行われているアンチセンス薬ミラセン(Milasen)。Milaちゃんという、バッテン病の患者のためのエキソンスキッピング型MOEのASO薬です。Milaちゃんのお母さんのトランスポゾン変異が原因で、この遺伝子変異によるバッテン病患者は、世界中でMilaちゃんだけ。Milasenは患者1人のための究極のテイラーメイド医薬品です。
 トランスポゾン変異によりMFSD8遺伝子に挿入された核酸の塩基配列が、スプライシング産物(RNA)に組み込まれ、終止コドン配列(AUG)が挿入されることにより、正常なタンパク質翻訳が行なわれないことが、Milaちゃんの病気の原因です。Milasenは、pre-mRNAのトランスポゾン挿入部分に相補的なASOであり、ASOの投与で挿入配列がスキップされた成熟mRNAが増加、正常なタンパク質が生成されます。
 ASOを用いた治療が計画されてから、実際に投与されるまで10ヶ月、文献上ではたった7つのASOから臨床化合物が選択されました(Kim_2019_NEJM)。承認薬ヌシネルセンと類似のスプライシング制御薬である点、Chemistry(MOE-PSオリゴ)及び投与経路(髄腔内投与)もヌシネルセンと同じ、患者の重篤性、希少性からFDAが臨床試験を許可したと言われています。
 ご両親は、Mila's Miracle Foundationという基金を設立し、300万ドルを集めこの医薬品研究資金に使ったとされていますが、どう考えても300万ドルでは足りないです。この研究に携わった研究者、Ionisの協力なしではなし得なかったプロジェクトです。
 このスピード感、対象疾患が遺伝子変異に対する点がまさしく核酸医薬品らしいと思いました。n = 1の臨床試験での医薬品開発は、医薬品ビジネスとしては成立しづらいと思います。しかし確立されたプラットフォームと、公的な資金やリソースの助けがあれば、「苦しむ患者に1年足らずで投与される薬剤が創生される時代」がそこまできていると感じさせられました。
 Milasenについては、愛し野内科クリニックの愛し野だよりで日本語で詳しくご説明されています。

2019年5月28日火曜日

ゾルゲンスマ承認で思うこと。

 FDAがSMAの遺伝子治療薬ゾルゲンスマを承認しました。薬価は、2.3億円。この値段は高い・安い色々な意見があがっていますね。1回の治療で完治するのであれば、私は安いのかなと思います。核酸医薬品のSMA治療薬スピンラザは、1年目は6回投与、2年目以降は3回で、アメリカでの薬価は、1年目8000万円超ですので、明らかにゾルゲンスマは安いです。
 致死性の遺伝性疾患に対して、新たなモダリティにより人命が救われ、子供達が将来を描けるようになることは、素晴らしいことだと思います。どんどん医療が発達して、救われる命が増えることを願います。
 一方、核酸医薬品として初めて商業的に成功したとされるスピンラザはシェアを奪われることになるでしょう、薬価も下がるかもしれません。様々なモダリティが、それぞれに適した疾患に合わせて選択される時代になったということですね。