2018年2月27日火曜日

シンポジウムレポ〜第3回革新的バイオ研究開発シンポジウム

 第3回革新的バイオ研究開発シンポジウム参加のため2月20日に大阪府豊中市の千里ライフサエンスセンターへ行ってきました。意見交換会では、顔見知りの方にお会いしたり、新しい方とお話できたり有意義な時間を過ごせました。わたしをご存知の方に「ブログやってるでしょう?」とお声がけいただきました。読んでいただけるというのは嬉しいものです。
 本シンポジウムは、大阪大学大学院薬学研究科小比賀聡先生主催、日本核酸医薬学会協賛、日本医療研究開発機構(AMED)後援で開催されました。メイントピックは、核酸医薬の開発ステージが進むにつれ問題となる毒性の課題克服に向けた取り組みについて。核酸医薬の毒性回避を目的とした研究が強力に推進されているというところからも、国内での核酸医薬開発のステージが上がっていることが分かりますね。今後がますます楽しみです。
 核酸医薬品を皮下または静脈へ投与した場合、投与後化合物濃度が上昇する肝および腎で毒性問題視されています。毒性回避に向けたさまざまな取り組みは、レギュラトリーサイエンスシンポジウムでも共通しますね。先生方が分類されている核酸毒性の分類図を拝借しました。シンポジウムの中でも何度も登場したので、スタンダードになっている図だと思います。

  • オンターゲット: ターゲット遺伝子に起因した効果であるので、投与量のコントロールにより制御可能。ターゲットによっては毒性マージンが狭いターゲットも存在する。そもそものターゲット選択が悪かった可能性もある。
  • 狭義のオフターゲット: ターゲット遺伝子以外に2本鎖形成することによって毒性が引き起こされる。バイオインフォマティックスを用いることによって目的遺伝子以外の遺伝子に対する2本鎖形成に起因するオフターゲットを予測することができる。最終候補品は、マイクロアレイによる確認も必要との議論。
  • 広義のオフターゲット:タンパク質などへの結合による毒性。TLR3, 7, 8, 9は、核酸を認識する受容体であり、プラットホーム、配列によっては注意する必要がある。デリバリー目的に用いたコンジュゲート分子由来、リポソームの構成成分、不純物など製剤に含まれる様々な要因が考えられている。

大阪大学の小比賀先生は、
「毒性ゼロに向けた革新的核酸医薬プラットホームの構築」というタイトルでご発表されていました。毒性回避のために構築した新たなプラットホームに関する発表で、ギャップマー型アンチセンスオリゴヌクレオチドのタンパク結合に起因する広義のオフターゲット回避に向けた取り組みが発表されていました。プラットホーム構築に向け具体的には、以下の実験が行われていた。
  1. GGGenome、GGRNAを用いた配列検索により、ヒト、マウスの遺伝子と相同性のない配列をピップアップし合成する。(オンターゲット、狭義のオフターゲット作用のない配列選択)
  2. in vitro試験でTLR9のアゴニスト作用のない配列に絞り込む。(広義のオフターゲットのうちのTLR9活性化作用のない配列を選択、TLR9は1本鎖DNAを認識する受容体であるため)
  3. 絞り込まれた配列をマウスに投与することによって、肝臓への毒性のある核酸塩基配列を同定した。(配列は非開示)
 
肝毒性の指標はALT/ASTを使用、マウス投与に用いられた核酸はLNAのホスホロチオエートギャップマー構造3-8-3型であった。得られた配列(HTS-1と命名)window領域(天然型のDNA)の核酸塩基部位に修飾を導入することによって、HTS-1配列で認められたALTの値をオリジナルの1%以下まで低下させることに成功した。核酸塩基部の修飾はピリミジン塩基5位またはプリン7位または8位修飾体を利用している。詳細な構造は非開示であった。

2018年2月23日金曜日

ルクサナバイオテク株式会社設立

大阪大学小比賀先生の技術に基づいた新たな核酸ベンチャーが設立されました。ジーンデザインで活躍されていた佐藤秀昭さんがCEOとしてスタートされます。小比賀先生はBNA/LNAを合成された後も、2'-4'架橋型のヌクレオシドの合成を継続されていて、最近ではアミド結合型のamido-bridged nucleic acid (AmNA)やシクロプロピル基を導入した2'-O,4'-C-Spirocyclopropylene bridged nucleic acid (scpBNA)なども合成されています。これらの技術のほか、最近では塩基部修飾にも注力されています。
今後の活躍に期待します!。


ルクサナバイオテク

シンポジウムレポ〜第9回武田科学振興財団薬科学シンポジウム〜医薬応用を目指したゲノム編集

2月7日、8日に吹田市にある武田薬品研修所で開催された医薬応用を目指したゲノム編集に関するシンポジウム聴講してきました。私自身はそれほど詳しくないので今回はお勉強させていただきました。
第9回武田科学振興財団薬科学シンポジウム
ゲノム編集といえば、CRISPR-Cas9や、TALENなど。触媒活性を持つ核酸-タンパク複合体であるCRISPR-Cas9。RNA鎖だけでは機能せず、タンパク質と複合体を形成することによって触媒活性を示す。最近見つかる新たな機能性核酸は、高機能であるが役者が多くて複雑ですね。今回のCRISPR-Cas9は、内因性のタンパクを使うわけではないのでさらに大変です。siRNAは、RNAだけ細胞に導入すれば内因性のAgoタンパクが機能してくれたから少しはシンプルでした。
というところで核酸化学がCRISPR-Cas9に貢献できる部分が少ないとは思うのですが、CRISPRにも課題はあるので何かしら研究できるかもしれません。
本シンポジウムでもCRISPR-Cas9の制約を解除する試みについて様々な発表がありました。CRISPR-Cas9ではーゲットDNA上にProtospac adjacent motif (PAM)とよばれる塩基配列が必要であり、-NGG-Nは任意のヌクレオシドとGGは連続するグアノシン)のすぐ下流配列しかCRISPR-Cas9は機能しない。また、CRISPR-Cas9では目的遺伝子のノックアウト効率は高いが外来遺伝子のノックイン効率が低いなど制約がある。Cas9、ターゲットDNAgRNAの結晶構造情報からCas9タンパクの改変を行なうことによって、PAM配列の自由向上や、Cas9タンパクの低分子化や、配列認識の精度が高いCas9の開発がおこなわれている(東京大濡木先生ら)。さらには、外来遺伝子導入のため従来用いられているプラスミドDNAではなく、長鎖1本鎖DNAを用いたノックイン効率の向上が検討されていた(大阪大真下先生ら)。

WaveとTakedaが中枢疾患領域でコラボレーション

プレスリリースが出てました。
Wave頑張ってますね。先日の核酸化学会でもハンチントン病の臨床試験について順調との発表がありましたが、武田が喰いつきましたね。武田薬品は、トランスフォーメーションということで、がん(Onc)、消化器系疾患(GI)、中枢神経系疾患(CNS)の3つとワクチンに絞るとともに、研究開発拠点をグローバルに再編・集約すると2016年7月29日に発表しています。その中でこれまで武田(国内製薬メーカー全般ですが)が得意としてきた低分子創薬が活躍できそうな領域としてCNSを残したという理解でした。低分子には他のモダリティと比較してBlood Brain Barrier (BBB、血液脳関門)透過の優位点があるからです。私の理解に反して、武田薬品がCNSに核酸のパイプラインを拡充するというのはかなり意外でした。CNS領域の核酸医薬といえば、昨年国内初で承認された脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬スピンラザがありますが、こちらは髄腔内投与(intrathecally)されています。今回のハンチントン治療薬WVE-120101WVE-120102の両方とも髄腔内投与のようです。髄腔内投与にも課題はいろいろあると思いますが、モダリティの変化は、中枢=BBB透過=低分子という従来の考え方も吹き飛ばせるのかもしれません。
今回のプレスリリースを見る限りですが、武田薬品はWaveとのコラボで核酸をどんどんやるというよりも、CNS領域のパイプライン拡充が主目的のように感じられました。

Wave Life Sciences and Takeda Form Global Strategic Collaboration to Advance Therapies for Central Nervous System Disorders

2018年2月6日火曜日

シンポジウムレポ〜第9回核酸医薬レギュラトリーサイエンスシンポジウム

1月29日に開催された核酸医薬レギュラトリーサイエンスシンポジウムのレポートを簡単にします。

第 9 回核酸医薬レギュラトリーサイエンスシンポジウム
(日本核酸医薬学会 部会サテライトシンポジウム)
核酸医薬創出に資する DNA/ RNA データベース整備 現状と課題

 今回のテーマは、DNA/RNAのデーターベースに関する現状と課題について。たんぱく質をコードする塩基配列はデータベース化されたが、近年見つかったlong non-cording RNAや、RNAのアイソフォームなどについて研究が進むなか、それらのデーターベースかが遅れている。その整備、活用について、日本の公的研究機関や、産業界がどのように取り組むべきか議論されている。レギュラトリーサイエンスということで、毒性を評価するための霊長類(カニクイザル)のデータベース化についても述べられていた。人とは相同性が高いが、霊長類の塩基配列のデータベース化は不十分。


理化学研究所の川路英哉先生らは、FANTOM5の進捗について報告。これまで網羅的に解析されてきたRNAの配列情報は、次世代シークエンサーを十分活用できていない時代のものであり、完全長のcDNA配列が根拠になっている点、解析に用いられてきたRNAは、RNAの調整が容易な細胞(がん)や臓器に限定されていた点、解析者の経験則が用いられている点を指摘。川路先生らは、次世代シークエンサーを活用し、健常人の細胞を中心に網羅的に測定をおこなった。ヒトのトランスクリプトームのデータベース化により20万のプロモーター、6万のエンハンサー、2万のnon-cording RNAを新たに同定した。これまでは、細胞種や臓器特異的なRNA構造(アイソフォーム)は十分に認知されておらず、今後はこれらの情報に基づく研究の進展が期待される。

http://fantom.gsc.riken.jp/5/

ライフサイエンス統合データーベースセンターの内藤雄樹先生らは、開発されたweb toolについて紹介されていました。詳しくはサイトの説明を見てもらいたいですが、簡単に紹介すると。
GGRNA(ぐぐるな): NCBIのRefSeqの転写産物をGoogle 検索のように検索。キーワード、塩基配列、アミノ酸配列での検索に対応。ペプチド鎖からもとの配列が検索できるのはうれしい。
GGGenome(げげげのむ): 塩基配列を高速検索し、ミスマッチ検索に対応。欠失がおおくても見落としが少ない設計。excelなどの表計算ソフトへの埋め込み検索対応。
siDirect: 活性が強く、オフターゲットがすくないsiRNAの配列設計支援。alnylamのTTRのsiRNAの配列も設計上位に出てきたとのこと。
CRISPRdirect: crispr-cas9にもちいるガイドRNA設計支援。植物、菌などの300種類ほどに対応しているとのこと。